PR

こんなの、助かった内に入りません -2-

こんなの、助かった内に入りません -1-
レナ『お姉ちゃん、今どこかな?』 「もしもし・・・電車の中だけど。終電」 レナ『あ、お疲れさまぁ』 「珍しい・・・何の用?」 レナ『何か、変わったことはない?』 「レナの臭いがする」 レナ『あっ、分かる?』 「あんたが私のスマホをこっそり陰...

目を覚ますと、屋外にいた。周囲に建物も植樹も見当たらない。地面はサラサラという感じで、灰色の砂が地面に敷かれているようだった。

レナ『お姉ちゃん、無事到着したわね』
「レナ・・・?」
いつの間にか、ワイヤレスイヤホンを付けさせられていた。レナはそれを通じて話していた。近くにはいないらしい。

レナ『寝ぼけているところ悪いけど、状況を説明するわ』
レナ『捜索していた東京を捕捉できたの。奇跡的な幸運だった。でも、余りにも小さくなってしまったから、私じゃあ直接触れられなかったのよ。送り込める条件を満たしていたのはお姉ちゃんしかいなかった。そこで、お姉ちゃんを転送させてもらったわ、東京の街中に』
「街中って、これ、まさか・・・」
体を起こして辺りを見渡す。何にも遮蔽物が無い平地、ではなかった。目の前に広がる景色は、航空写真のようだと分かった。
砂の感触のようだったのは、微小な建物群だった。
「ウソでしょ?これが東京の街?私をこんな巨人にして、どうするつもりなの」
レナ『違うよ、巨人じゃないわ、お姉ちゃんは。言ったでしょ、東京は分子サイズになってしまった。だから、お姉ちゃんにも小さくなってもらったの。それでもそのくらいまでしか、縮小できなかったのよ」
「でも、これじゃあ東京の街を踏み荒らす破壊の大巨人になってしまうじゃないのよ?!」
起き上がった背中から、パラパラと砂粒、いや、圧壊した瓦礫屑が舞って落ちていくのを感じた。
それは私の身体よりもずっと小さいものだ。しかし、それが何千万トンもあるなら、私はとんでもない大きさになっているに違いない。

レナ『さて、お姉ちゃんにはやってもらいたいことがあるの。今からスマホに送る座標に向かって欲しいんだけど』
「ちょっと待って、いきなりそんなこと言われても、心の準備が出来ていないわ」
レナ『そうよね、まずは深呼吸して心を静めて』
言われるままに、大きく息を吸った。すると、突然激しい頭痛に襲われた。
「うっ、頭が割れる!!」
レナ『落ち着いて!この世界では、ある条件で自分の肉体の大きさを自由に変更できる。だから、今の痛みは錯覚に過ぎないのよ!』
「え?どういうこと?」
レナ『とにかく、その地点に行ってみてちょうだい。そこで、やってほしいことが待っているわ』
「もう・・・訳分かんない」
私は頭痛に耐えながら立ち上がった。そして歩き出した。
足の裏に感じる地面はとても硬く、まるで金属板の上を歩いているような感覚だ。一歩踏み出すごとに、大地が激しく揺れ動いた。

「ねえ、どこに行けばいいの?教えてくれないと分からないよ」
レナ『すぐに分かるから』
「・・・」
それからしばらく歩いて行くと、大きな建造物が目に入った。東京スカイツリーだった。
レナ『あれが目的地よ』
「な、なんて小さいんだろう・・・」
大きな建造物、と言っても比較しての話。
実際には高さ数センチ程度のミニチュア模型にしか見えないのだ。
「これを持ち帰って元に戻せば良いわけね」
レナ『察しがいいじゃない、お姉ちゃん』
私は手を伸ばしてみた。指先が届くか届かないかという距離だったが、何とか触れることが出来た。そして掴んで引き寄せた。
その瞬間、スカイツリーの頂上部分が砕けて飛び散り、小さな破片となって地面に降り注いだ。
レナ『気をつけて!お姉ちゃんが相対的に巨大化しているせいで、物質の強度が大きく低下してしまっているのよ。少しでも力加減を間違えると、簡単に壊れてしまうわ』
「そっか、慎重にしないとダメなんだ」
私はもう一度手を伸ばした。今度はスカイツリーの側面部分を掴めた。
レナ『そのまま引き抜いて』
言われた通りに引っ張ってみる。ズブズブと抵抗を感じながらも、やがて根っこごと引き抜かれてしまった。
「なんか気持ち悪いなぁ」
展望室の中にまだ多数の人間がいるかと思うと、力加減がおっかなく感じた。
レナ『そう思うのは仕方がないけれど、今は我慢するしかないわ。早く次の場所に移動しましょう』
再び移動を開始した。足元は相変わらず硬いコンクリートだが、所々にヒビが入っていた。
レナ『この辺りは地盤沈下が進んでいるみたい。あまり長くは居られないかも』
「そうなの?じゃあ急がなくちゃ」
歩くペースを上げた。
レナ『お姉ちゃん、もう少しゆっくり歩かない?』
「どうして?急いでいるのよ?」
レナ『だって、お姉ちゃんのスピードだと、あっという間に東京を踏破してしまうもの。それに、このままだと東京中を壊すことになりかねないのよ?分かってるの?』
「それは困ったなあ・・・」
レナ『だから、もっと遅く歩いてくれないかな?それくらいなら大丈夫だから』
「分かったよ」
私は速度を落とした。それでも、周囲にある建物が次々と崩壊していった。ビルやマンションなどは勿論のこと、自動車や電車、飛行機までもがバラバラになって吹き飛んでいった。
レナ『良かった・・・お姉ちゃんの足裏は無傷だったようね』
「うわっ、私、何もしてないのに!」
レナ『そうよ、お姉ちゃんは何もしていない。ただそこにあるだけで、東京を破壊しているの。それも意図せずに』
「酷い話だよ、全く・・・」
レナ『まあ、それが現実というものでしょう。受け入れなさい。さあ、どんどん進みましょう!』

それから数分後のことだった。私はとある場所で立ち止まった。
「ここは・・・」
そこは、東京タワーの根元付近であった。しかし、既に東京のシンボルである電波塔の面影は無くなっていた。
その部分はまるで巨大な隕石が衝突したかのように、深く陥没していた。周囲の高層ビル群も跡形もなく消え去っていた。
「ねえ、ここって本当に東京なの?私が踏み潰したせいで、こんなことになってしまったの?」
レナ『違う違う、お姉ちゃんのせいじゃないよ。これは元々こうなる運命だったの。だから気にしないで』
「でも、こんなのってあんまりだよね・・・」
私は泣きそうになった。
レナ『さっきも言ったでしょ、お姉ちゃんのせいじゃないって。お姉ちゃんは悪くないの。だから、元気出して』
「うん、分かった」
私は涙を拭いて、再び歩き出した。
レナ『そうそう、それで良いの。あと少しで目的地に着くから』
「えっ?もう?」
レナ『そうよ、お姉ちゃんよりも東京が小さいから、すぐに到着しちゃうのよ』
「うーん・・・」
それから10分もしないうちに、目的地に到着した。
レナ『お疲れ様、お姉ちゃん。よく頑張ったね』
「もうクタクタ・・・」
大した距離ではなくても、不本意な蹂躙をしてしまって気苦労がすごい。私はその場に座り込んだ。

レナ『お姉ちゃん、これから元の大きさに戻るのよ』
「そうだね、早く戻らないと・・・」
立ち上がった私は、手を伸ばす。すると、手の平に収まる程度だったスカイツリーが巨大化し、私の身体を覆い隠せるほどのサイズになった。
それはすぐに縮んだ・・・ように見えた。実際には、私が大きくなっていた。
レナ『気をつけて!今のお姉ちゃんは、とても不安定な状態になっているから、ちょっとしたことで崩壊する恐れがあるわ』
「怖いなぁ・・・私が描いたイメージに、過敏に反応しているのね」
私は慎重にスカイツリーを引き寄せて胸の前に持っていくと、両手で包み込むようにして持ち上げた。そして、自分の目線の高さまで持ってきた。

「これを持ち帰れば良いんだよね?」
レナ『そうよ。お願い出来る?』
「任せて」
そう言って微笑むと、スカイツリーを握り締めた。
バキィッ!グシャァ!! その瞬間、私は力を入れすぎたことを後悔したが、後の祭りだった。
スカイツリーの頂上部分が崩れて飛び散り、周囲に落下して砕け散った。
「ああっ、ごめんなさい!!」
レナ『・・・』
「どうしよう、また壊してしまった」
私はパニックになっていた。
レナ『落ち着いて、お姉ちゃん。そんなに心配しなくていいのよ』
「でも、この調子だと全部壊してしまいそうで怖くて」
レナ『大丈夫よ。お姉ちゃんは私を信じてくれればいいの。それだけで上手くいくから。ほら、もう一回やってみよう?』
「う、うん・・・」
もう一度チャレンジする。今度は慎重に、ゆっくりと力を込めていった。
パキッ!ベコッ!メリッ・・・ 何とか持ち上がったものの、それは既に原型を失っていた。
「ダメだ、やっぱり壊してしまう」
レナ『お姉ちゃん、焦っちゃだめよ。展望室だけ守れば大丈夫。ゆっくりやろう?』
「うん・・・」
それから何度も挑戦して、ようやく完成させることが出来た。
「出来たよ!」
レナ『良かったね、お姉ちゃん。じゃあ、それをお胸に近づけてくれるかな?』
「こう?」
私は言われた通りにした。すると、私の大きな乳房の間に挟まっていたペンダントが反応して輝き始めた。
レナ『やったね、これで元に戻れるよ!』
「やっと元の姿になれる!」

私は嬉しくなって、その場でジャンプした。
しかし、その拍子にバランスを失ってしまった。
「きゃっ!?」
私は仰向けに倒れてしまったが、幸いなことに大きな音を立てるだけで済んだ。
「いたた・・・」
レナ『お姉ちゃん、大丈夫?怪我は無い?』
「うん、平気だよ」
起き上がって周りを見回すと、そこは見慣れた自宅のリビングルームだった。
「あれ?ここは・・・」
レナ『お姉ちゃんの家よ』
「どうしてこんな場所に?」
レナ『お姉ちゃんが元の身体に戻ったからよ』
「ああ、そういうことか・・・」
レナ『お疲れ様、お姉ちゃん。大変だったね』
「うん、でももう終わったことだもの。気にしないことにする。・・・って待って?」
手の中に、まだ小さな感触がある。恐る恐る視線を向けると、そこには本当に数センチの大きさになった、スカイツリーがあった。
「なんで?せっかく任務を完了したのに」
レナ『仕方ないよ。お姉ちゃんは大きくなった時に、無意識のうちに力を込めすぎちゃったの。だから、もう無理なんだよ』
「そんな・・・」
私は落胆して項垂れたが、すぐに気を取り直して言った。
「でも、このまま放置するのは可哀想だし、せめて記念にとっておこうかしら」
レナ『うん、それがいいわ』
「えへへ・・・なんだか愛着湧いてきちゃったかも」
私はスカイツリーを手に持ったまま、胸元に引き寄せた。
すると、スカイツリーは私の意思に従って、小さくなった。
「ありがとう、私の言うことを素直に聞いてくれて嬉しいよ」
私はスカイツリーに頬ずりした。すると、中の生存者の叫び声が聞こえた、ような気がした。
「ごめんね、痛かったよね」
私はスカイツリーを抱きしめると、口づけをした。
「どうか安らかに眠ってね」
それからしばらくの間、私はスカイツリーの亡骸を撫でていた。

タイトルとURLをコピーしました